知らなきゃ損をする医学部受験の足切りの実情と足切りに合わない出願法

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※2019年5月9日に公開した記事ですが、2019年6月12日に修正しました。

 

国公立医学部受験において見られる制度の一つとして、いわゆる「足きり」があります。他学部でも採用されている本制度ですが、医学部受験においては、どのように活用されているかご存知でしょうか?

 本日はその「足切り」について、国公立医学部の前期一般入試のデータをもとに、近年の実施状況やボーダーラインといった情報を紹介いたします。

そもそも「足切り」って何?

「足切り」とは国公立大学受験において、センター試験の結果をもとに大学ごとの個別試験を行う前に、受験生を予め選抜する制度のことを指します。すなわちセンター試験で一定の点数を取れなければ、個別試験の受験資格自体がはく奪される可能性があるということです。

 

「足切り」は正式には二段階選抜と呼ばれ、センター試験が一段階目の選抜、個別試験が二段階目の選抜ということになります。国公立の医学部受験においても二段階選抜を制度として持っている大学が多く、前期日程では全49校の国公立医学部のうち鳥取大学を除く48校が本制度を採用しています。

バリエーション豊富な選抜方法

さて、ほぼすべての国公立医学部で見られる二段階選抜ですが、その適用条件は大学によって様々です。これらの条件を大別すると、次の3つに分かれています。

(ア)倍率(募集人数に対する受験者の数)による選抜

(イ)点数による選抜

(ウ)(ア)と(イ)を組み合わせたもの

の3つになります。

 

 まず、「足切り」を行う大学の大部分が(ア)の倍率を基準として、一次合格者を決めています。例としては、岐阜大学や岡山大学などが挙げられます。ただし基準となる倍率は各大学で例年の受験者数をもとに設定されているため、大学間でばらつきがあります。実際、上述の岐阜大学では約15倍、岡山大学では約4倍と大きく差があります。受験生の動向により倍率は毎年変わるため、二段階選抜が実施されるどうか年度によって違う点や、ボーダーラインが出願時に分からない点も、医学部受験生にとっては悩みの種となるかもしれません。

 

 続いて(イ)の特定の点数を基準とする大学は神戸大学、名古屋市立大学、大阪市立大学の3つです。神戸大学や大阪市立大学ではセンター試験で5教科7科目の900点満点中650点(約72%)取ることができれば一次選抜はクリアできます。名古屋市立大学については、傾斜配点で計算した500点満点中375点(75%)以上の点数が一次選抜の合格条件です。

こちらの制度は基準が明確でセンター試験の自身の得点も分かるため、出願に当たってはさほど迷うことはないでしょう。しかしながら、自己採点の結果が基準をわずかに超えた点数である場合は、実は採点ミスで基準に達していないといったことも起こり得ることは念頭に置いておきましょう。

 

 最後に、(ウ)の制度を導入しているのは、京都大学、大阪大学、徳島大学の3つです。(ア)と(イ)の組み合わせというのは少々分かりづらいですが、具体的には京都大学ではセンター試験で900点満点中630点(70%)以上の者のうちから、募集人員の約3倍までの者を総得点の順位に従って一段階選抜の合格者とするといったものです。ちなみに残りの2大学の得点と倍率の基準は、大阪大学では900点中720点(80%)・約2.6倍、徳島大学では900点中600点(約67%)・約5倍となっています。

二段階選抜の実施状況

それでは特に(ア)の倍率の基準で二段階選抜制度を取り入れている国公立医学部において、どの程度、実際に足きりが実施されているのでしょうか?

結論から申し上げますと、大半の大学で行われていない、というのが実情です。2018年度のデータによると、前期日程で(ア)の倍率の基準を採用している国公立医学部42校のうち、足切りが実施されたのは12校のみで、およそ3分の2の大学では志願者全員が個別試験を受験することができました。

反対に足切りが実施された大学のデータを見てみると、東北大学では予告倍率3.0倍に対して志願倍率は3.6倍、高知大学では予告倍率4.0倍に対して志願倍率は5.3倍でした。前期一般入試では予告倍率の数倍の受験者数が集まるということはほぼないので、数%から多くても30%程度が一次選抜で振り落とされることになります。

 

 興味深いのが、基準倍率にも遊びを持たせている大学が存在している点です。予告倍率と志願倍率を比べてみると、弘前大学では8.0倍に対して8.2倍、佐賀大学では5.0倍に対して5.8倍でしたが、二段階選抜は実施されませんでした。ここからわかることは、足切りの主目的は適切な試験運営にあると考えられます。つまり、受験者数が増加すると、試験監督の人員や会場の確保が必要となり、また採点の負担が重くなるため足切りの倍率を設定しているのだと考えられます。だからこそ、この目的が達成できると判断されれば多少予告倍率を超えてもそのまま個別試験に移るのでしょう。

 

 次に(イ)のセンター試験の得点のみを基準としている国公立医学部においても、二段階選抜は機能しています。名古屋市立大学では一次選抜不合格者はいませんでしたが、神戸大学では290人中11名、大阪市立大学では364人中16人が不合格でした。これはぎりぎりの点数で出願したところ採点ミスで基準に達していなかったか、点数が足りていないことは知りつつもダメもとで出願してみた、といったことが理由であると考えられます。少なくともセンター試験の得点が基準に満たない場合は、潔く出願を避けるのが賢明といえそうです。

 

 また、(ウ)の倍率と得点を組み合わせた選抜法を用いる大学のうち、予告倍率に達していない大阪大学と徳島大学においても、一次選抜不合格者が見られます。つまりこの不合格者は足切りのボーダーラインを突破できていなかった受験生ということができ、上記(イ)の得点が足りなかったという事情が当てはまると考えられます。

 一方で京都大学では予告倍率約3倍に対して出願倍率が3.3倍とやや上回りました。そして志願者数561人のうち12名が一次選抜で落とされています。ここで気になるのが一次選抜を行った後でも、倍率が3.2倍であった点です。もし3倍に近づけようとすればもう少し不合格者が出てもよさそうなものです。このことから倍率では足切りを行わず、基準点を取れている医学部受験生全員が個別試験に進むことができたのではないかと予想されます。

 以上の内容を踏まえると、(ウ)の倍率と点数を基準とする大学においても、倍率で足を切られる可能性は低く、基準点をクリアすることが一次選抜突破のカギと言えるでしょう。

出願するときの判断材料

 それではこれまでの内容を知ったうえで、どのように志望校に出願するかどうかの判断をすれば良いのでしょうか?

 

 国公立大学の出願はセンター試験後であるため、自身の自己採点の結果をもとに改めて受験大学を選択する猶予はあります。ところが自分が何点取れたかということだけではなく、周囲の受験生がどの程度の点数を取っているかということも大切な情報です。センター試験の正式な結果が公開されるのは国公立大学の個別試験終了後であるため、この時期に簡単には情報を集めることはできません。

 そこで役に立つのがいくつかの大手予備校が実施している、センターリサーチです。センターリサーチとは受験生にセンター試験の自己採点結果や志望大学を提出してもらい、その年度のセンター試験の難易度や出願傾向を予備校側が分析する仕組みです。最終的には結果が参加した受験生に知らされるため、出願大学の判断材料として使えることになります。データには分析結果や過去の傾向を踏まえた合格判定や、二段階選抜の実施の有無およびボーダーラインまで含まれているため、毎年非常に多くの受験生が参加します。

 

 国公立の医学部受験でもこういったデータ集めが欠かせないことは言うまでもありません。可能な限りセンターリサーチには参加することをお勧めします。

 ただ注意しなければならないのが、センターリサーチの結果が100%正しいとは言い切れない点です。確かにかなりの数の受験生が参加するため精度の高いデータが返ってきますが、それでもすべての受験生の得点を集計しているわけではないためどうしても誤差が生まれます。出願時点で二段階選抜の実施見込みのある医学部で実際には行われなかったり、ボーダーラインが違っていたりといったことはよくあることなのです。特に募集人員の少ない傾向のある国公立の医学部受験では数%の得点率の違いで合否が分かれるため、余裕を持った点数で出願できるように日頃から勉強しておきましょう。

 

 さらに医学部受験では合格のためにセンター試験では9割近くが必要と言われていますが、足切りとなる点数は70~80%台の大学がほとんどです。仮に足切りにはかからなかったもののぎりぎりであったとすると、個別試験での巻き返しが必須なのはご理解いただけるでしょう。この点、センター試験と個別試験の配点は大学によって千差万別なので、個別試験の配点が大きい医学部に出願すれば逆転も可能といえます。

 要するに出願に際しては、足切りを突破できるかどうかだけではなく、その先も見据えた戦略を持って判断しなければならないということです。なお、各試験の配点を基準とした受験大学の選び方については、別記事「入りやすい医学部ってどんな医学部?」の中で言及しているのでぜひご覧ください。

 医学部受験では、出願方法によって大きく合否が左右されるということも十分ありえます。この記事が、足切りを避けて上手く出願でき逆転合格を手にする一助になれば幸いです。

まとめ

国公立医学部の足切りについてまとめると、

①前期一般入試では全49校中、鳥取大学を除く48校が足切り制度を導入している

②足切りの適用される条件は、

(ア)倍率(募集人数に対する受験者の割合)を超えた場合

(イ)センター試験の点数が大学の基準に満たない場合

(ウ)(ア)と(イ)を組み合わせたもの

の3つに分かれる

③(ア)で二段階選抜を行う大学は少ない

④(イ)、(ウ)で二段階選抜を行う大学では、基準点をクリアすることが重要

⑤出願に際してはセンターリサーチを活用する

⑥センターリサーチの結果は100%正しいとは言い切れない

の6つです。

 

 国公立の医学部では足切りを行わない場合が大半なので、制度として存在していることをご存じなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか?この記事で足切りがどのようなものかわかって頂けたことと思います。医学部受験では、多くの大学で足切りが実施されていませんが、「だったらセンター試験の点数は取らなくても大丈夫。二次試験で取り返せばいいや。」と高をくくらずに、センター試験でも高得点を目指して頂けたらと思います。

 

 

本記事内で登場した過去のオススメ記事

「入りやすい医学部ってどんな医学部?」


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