医師国家試験の結果から見る留年しやすい医学部ランキング

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去る3月18日、2019年度医師国家試験の合格発表が行われました。受験者数は昨年度ついに1万人を超えましたが、合格率は毎年90%前後で安定しています。

 さて、公開されている大学別の医師国家試験の結果を見ると、ある興味深いデータを得ることができました。それは6年次の留年率が大学によって異なるということです。本日は2018年度の資料をもとに、留年率の高い医学部の特徴を紹介します。

データの見方

そもそもなぜ医師国家試験の結果から、大学ごとの6年次の留年率が分かるのかについて説明していきます。

 

 公開されているデータを見ると、各医学部の出願者数、受験者数、合格者数、合格率が一覧となって掲載されています。多くの方が合格率に目が行きがちですが、今回注目すべき数値は出願者数に対する受験者数の割合です。

 出願者数は基本的に6年次に在籍している学生全員の人数と考えられます。すると本来であれば、出願者数=受験者数となるべきところ、出願したものの受験していない学生が決して少なくない人数いることが分かります。

 

 ここで仮に試験当日、38度の高熱を出して体調が悪かったとして、6年間(あるいはそれ以上)の勉強の集大成ともいえる医師国家試験を欠席するでしょうか?少々の体調不良であれば無理をしてでも受けに行くのが普通ですね。確かに大きな病気等のやむにやまれぬ事情で受験がかなわなかった医学生もいるかもしれませんが、ごく少数のはずです。

 それではなぜ多くの非受験者が生まれるのかというと、6年次に卒業試験に不合格となり、留年することが最も大きな原因と考えられます。医学部では6年次には座学がほとんどなく附属病院等での臨床実習および医師国家試験の勉強が中心の生活となりますが、最終的に学内での卒業試験をパスする必要があります。そしてもし卒業試験に合格することができなければ、留年となり卒業が認められず医師国家試験の受験資格をはく奪されてしまうのです。

 

 以上のことから、本記事では出願者数から受験者数を引いた人数をその医学部における留年生の数と見なし、大学ごとの様々な特徴を分析していくこととします。

2018年度医師国家試験の結果

それでは実際に2018年度の医師国家試験の結果を確認してみましょう。

 

 出願者数は全医学部を合計すると10351名、受験者数は10010名なので、341名(約3.3%)が非受験者となっています。そのうち合格者数は9024名で合格率(合格者数/受験者数)は90.1%と例年並みでした。

 

 非受験者341名に着目すると、大学ごとに一律に存在するわけではなく、ある程度偏りが見られます。とりもなおさずそれは、大学によって留年のしやすさに違いがあることを意味していますが、国公立か私立かといった大学の区分によっても、一定の傾向があります。

 

 まず、国公立医学部では6年次の留年率は低く、どの大学でも全員卒業試験には合格しているか、留年生が多い場合でも学年全体の10%未満に収まっています。最も留年率の高い熊本大学医学部でも、留年生は115名中10名(約8.7%)です。

一方で、私立医学部では留年率にばらつきがあり、順天堂大学医学部や東京慈恵会医科大学等では留年生が1人もいないのに対して、岩手医科大学や川崎医科大学等では留年する学生が30名近くに上り、留年率としても20%近い数字となっています。私立全体としてみれば留年率10%未満の大学が多数派であることは間違いありませんが、極端に留年者が出ている大学も存在するという点は押さえておきましょう。

なぜ6年次に留年させるのか?

医学生の立場になって考えてみると、膨大な数のテストを乗り越え、実習をこなしてきたにも関わらず、最終学年の卒業試験1つで留年が決まるのは少しかわいそうな気がします。いずれにしても医師国家試験は厚生労働省が実施する公正な試験で、この試験に通らないことには医師として働く資格は得られません。そうであれば学内の卒業試験の判定は少々甘くても、最終的に国家試験に合格するのであれば問題ないようにも思えます。しかしながら、大学側としても譲れない理由があるはずです。

 

 医学生を6年次の卒業試験により留年させる理由は、主に以下の2つが挙げられます。

①医師として働くのに十分な知識と技能を身に付けさせる義務が大学にある

②十分に勉強できていない学生に医師国家試験を受験させると大学の合格率が下がる

 

 1つ目の大学の義務は、人の命を預かる医師や研究者を養成する機関としては、当然果たさなければならないものです。医師は高い専門性と倫理観を備えていなければならず、ただ勉強ができるだけでは現場で活躍することはできません。この点、各大学の医学部では座学はもとより、実習や演習を通して現場の医師による指導も取り入れながら、知識を身に付けるだけでなく、技術の修得や人間性の向上を目的として細かくカリキュラムが定められています。医師国家試験を受験するためには、基本的には医学部を卒業していることが要件となる理由も、これでご理解いただけるかと思います。つまり大学としては、医師として適正を欠く状態のまま、学生を卒業させるわけにはいかないのです。

 

 2つ目の合格率については、大学の体面に影響を及ぼすものです。医学部を目指す受験生はほとんどが医師になることを志しているため、医師国家試験の合格率が低い大学には行きたがらないのは自明です。そこで大学側としては、国家試験に受かる可能性の低い学生を留年させ、受験資格を与えないことで不合格者を減らす方が都合が良いといえます。公開される大学別の医師国家試験の合格率は、合格者数/受験者数で計算されるため、留年生が増えることは数字には影響がありません。もちろん合格率を留年の理由として明確に宣言している大学はありませんが、少なからずこのような事情もあるようです。

医学部の6年次留年率から読み取れること

最後に医師国家試験の結果から分かった、大学ごとの6年次留年率から読み取れることをまとめていきます。

 

 初めに強調しておきたいのが、6年次留年率や医師国家合格率がそのまま大学の良し悪しや卒業生である医師の質を左右するものではありません。どの大学にも名医とよばれる先生は必ずおり、各分野をけん引する業績を上げていることをご承知おきのうえ、以下の内容をお読みください。

 

 結論から申し上げると、留年率が低いから良いとか、留年生が多いから良くないといったことは一概に決めることはできません。

 例えば、国公立の医学部は6年次留年率が低く、医師国家試験の合格率も素晴らしい結果を残す大学が多いことは事実です。ところが裏を返せば、大学からの要求が多くついていくのが困難に感じる人もいるかもしれません。途中でついていけなくなって挫折してしまう可能性もあります。また、6年次以外の学年で留年が多いこともあり得ます。

 反対に、6年次留年率が高い私立医学部であっても、国家試験の合格率が上位に食い込む大学であれば、卒業試験がきちんと機能していることを表します。この場合は、自分のペースで学内のテストにパスしていくことに集中して勉強していけば、自然と医師への道へと進むことができるでしょう。

 

 ただし気を付けなければならないのが、6年次留年率が高いにも関わらず、医師国家試験の合格率が低い大学です。もちろんこのような医学部の受験を避ける必要はありませんが、入学後に周囲の雰囲気を基準に学生生活を過ごしていると、留年や国家試験浪人といった結果を招きかねません。中には受験者数/出願者数で算出した実質合格率が、70%を切った医学部も存在します。

 

 読者の皆さんに覚えておいていただきたいのが、月並みな表現にはなりますが、大切なことはどこの大学に入学するかではなく、入学してからどのように頑張ったかです。繰り返しになりますが、日本を代表するような医師や研究者はどの大学にもいらっしゃいます。彼らに共通するのが、人一倍努力をしてきた点です。これから医学部受験を目指す方は、さらにその先の将来についても考えてみることをお勧めします。

まとめ

医師国家試験の結果から分かる各医学部の特徴をまとめると、

①出願者数と受験者数の差が大きい医学部は、6年次留年生が多いと予想される

②6年次留年の理由は卒業試験の不合格による

③国公立医学部は留年率が低いが、私立医学部の一部には極端に留年生が多い大学がある

④大学側は医師・研究者養成機関としての義務や合格率の観点から留年させる

⑤留年率の高低で大学の良し悪しは決まらず、自身が入学後どのように頑張るかが重要

の5つがポイントです。

 

 これから医学部入試を控える受験生は、大学の偏差値を志望校の判断基準とすることがほとんどですが、本記事で紹介したようなことも選択の基準の1つとしてみてはいかがでしょうか?医学部に合格することはあくまでも通過点に過ぎず、その先の医師・研究者として活躍していく期間の方が圧倒的に長いことを忘れないでくださいね!!

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