近畿大学医学部の物理の傾向と対策
先日、「近畿大学医学部の数学の傾向と対策」の記事の中で、近畿大学医学部の入試は医学部受験としては合格最低点が低いことをお伝えしました。つまり高得点を取ることが難しいということの表われであり、これは物理についても当てはまります。 本日はその近畿大学医学部の物理に関して、傾向を分析したうえで具体的な対策法を紹介します。
近畿大学医学部の物理の試験形式・配点は?
はじめに近畿大学医学部の入試制度について見ていきましょう。
近畿大学はいくつかの入試制度を採用していますが、医学部では推薦入試(30名)、前期一般入試(65名)、後期一般入試(5名)、センター試験利用入試(15名)により合格者を選抜します(カッコ内は平成31年度の募集人員)。
本記事では、最も受験者数の多い前期一般入試について取り上げます。
前期一般入試は、私立の医学部受験としては典型的な形式である、二段階選抜制となっています。すなわち、一次試験では数学、理科2科目、英語による学力検査が、二次試験では小論文および面接が課されることになります。
一次試験の各科目の配点は、
数学:100点 理科:100点×2 英語:100点
であり、合計400点満点です。
なお、一次試験の合否は学力検査の成績によって判定し、一次試験の合格者からさらに二次試験の成績および調査書等を総合的に判定して最終合格者を決定されます。小論文は段階評価で点数化されず、面接に関しても募集要項への記載は見られません。
理科に関しては、物理・化学・生物の3科目から2科目を選択して解答します。制限時間は2科目に対して120分与えられるため、1科目にかけられる時間はおよそ60分です。
そのうち物理は、大問3つで構成される点は例年変化がありません。基本的には各大問で1つのテーマが扱われます。
一方で、解答形式については、近年、少しずつ変化がみられます。平成27年度までは、大問3つとも計算過程も含めて解答する論述式でしたが、平成28年度以降は空所に当てはまる数式や数値等を答える穴埋め式とそれまでの論述式の両方が出題され、平成30年度にはすべてが大問ごとに10個前後の空所補充形式になりました。
ただし、空所補充がメインの問題であっても、場合によってはグラフの作成や描図、あるいは説明問題も見られるため、注意が必要です。
受験生の中には、論述式より空所補充の方が簡単に感じるかもしれませんが、実際はそうとも言い切れません。論述式では確かに設問1つに対する時間はかかりますが、部分点が発生したり問題数が少なくなったりするメリットがあります。逆に空所補充では、ケアレスミスをすると1点ももらえず、問題文による解答の誘導に乗れないと、多大な失点につながる可能性もあります。
合格最低点を見ても、物理の問題のすべてが空所補充形式となった平成30年度においても、大きな変化は見られませんでした。
実際、近畿大学医学部の物理は序盤の空欄は基礎的な内容ですが、後半に近づくにつれて数式の処理や状況設定が複雑で、解答に手間がかかるものが増えていきます。
制限時間も問題の難易度に対して余裕はないため、高得点を狙って各大問全てを解ききろうとするのではなく、どこまで解ければ目標点に手が届くかを意識しながら手早く次の問題に移れるかどうかがカギになります。
近畿大学医学部の物理の問題の難易度と合格に必要な得点率は?
続いて、近畿大学医学部の過去の合格最低点のデータや他の科目の難易度をもとに、物理では何点を取ればよいか考えてみます。
近畿大学医学部の合格最低点は、配点比率の変わった平成29年度以降は、
平成30年度:227点/400点 平成29年度:217点/400点
となっており、約55%以上あれば合格といえます。
ちなみに、それ以前の合格最低点は、
平成28年度:374点/600点 平成27年度:360点/600点 平成26年度:394点/600点
であり、合格には65%以上が必要となる年度もありました。
平成29年度以降は形式だけでなく、難易度についても線引きをする必要がありそうです。
上記のことから、近畿大学医学部に合格するためには、400点中240点(60%)を目標とするのが良いでしょう。
他の科目の難易度を考慮すると、それぞれ、
数学:60点 理科:125点 英語:55点
を目指すのがオーソドックスな戦略となります。
理科は2科目で125点であるため、特に選択科目の間で得意不得意の差がなければ、物理では100点中60~65点を目指しましょう。
空所補充は自分でも出来が把握しやすいため、各大問のどの空所まで埋められていればよいか、ある程度計算しやすいはずです。やみくもに解き進めるのではなく、リスクを冒すことなく効率的に得点を重ねることを心掛けてください。
近畿大学医学部の物理の出題傾向は?
それでは近畿大学医学部の物理では、どのような問題が出題されるのでしょうか?
物理の単元は力学・波動・熱・電磁気・電子に大別されますが、近畿大学医学部の物理では基本的に1つの大問で1つの単元が問われます。過去問を確認すると、ここ5年の単元ごとの傾向としては、力学・電磁気>波動・熱>原子の順に出題頻度が高くなっています。
つまり、頻出度により重要度は異なりますが、いずれの単元からも出題の可能性があります。そのため、どんなテーマでも少なくとも典型問題の標準的な解法は、すべて一通り頭に入れておかなければなりません。
さて、以下では頻出度の低い原子以外の単元ごとの重要テーマをまとめていきます。
【力学】
毎年、大問1では力学の問題が出されています。物体の運動や力のつり合いに関するテーマが中心で、中でも等加速度直線運動を扱うものが頻出です。放物運動では水平方向には等速直線運動、鉛直方向には等加速度直線運動するといった基礎的理解は欠かせません。等加速度加速運動にはいくつか公式が知られていますが、どの公式を活用すれば解答まで最短でたどり着けるか練習を通して理解しておいてください。
加えて単振動の考え方を身につけることも不可欠です。大問1でばねの単振動が問われることもありますが、ばねが斜面上に置かれていたり、あるいは電磁気のテーマ中に組み込まれていたりする等、状況設定が基礎的なものから外れている場合が多々あります。単振動に関わる応用問題も押さえておきましょう。
【電磁気】
力学と同様、電磁気も大問2で毎年必出の単元です。電磁気では磁場中の荷電粒子の運動や磁場中の電流の流れる2本の導体棒の力のつり合いといった、電流と磁場の関係を扱う問題がよく見られます。電流と磁場の関係を扱う問題は、力のはたらく向きを間違えるとその後の問題をすべて間違えるといったことにもなりかねないので、フレミング“左”の法則をしっかり使って図に丁寧に矢印を書きこみましょう。また、公式を単発で覚えるのだけではなく、電流が磁場から受ける電磁力と荷電粒子が受けるローレンツ力の間の関係性等、現象を関連付けて押さえていくと理解が深まります。
【波動】
大問3で2、3年に1回出題されます。扱われるテーマ自体は幅広いですが、特徴として見慣れない状況設定がなされていることが多いことが挙げられます。どういうことかというと、例えば平成28年度には医療現場で用いられる血流の速さの測定機器の原理をドップラー効果と絡めて扱ったり、平成26年度にはいわゆる回折格子や薄膜干渉とは異なるプリズムを用いた光波の干渉実験を扱ったりしています。この手の問題は私立医学部受験ではよく見られますが、特別な知識が必要なわけではなく、典型問題で学んだ物理現象のエッセンス部分を、見慣れない現象にも応用できるかどうかが問われているのです。実戦演習を積んで、応用力も身に付けていってください。
【熱】
波動と同じく、大問3で2、3年に1回程度出されます。熱力学の単元でメインとなるのはやはり気体の状態変化と熱力学第一法則です。覚えるべき事項はあまり多くないため、公式や考え方を理解したら、とにかく問題集で練習をして使い方を修得していきましょう。
他にも過去には水の状態変化と熱量についての問題の出題歴もあります。医学部受験生にとっては手薄になりがちなテーマですが、蒸発熱や融解熱といった基本的事項は試験前に再度復習しておくと良いでしょう。
お勧めの近畿大学医学部の物理の対策方法
最後に以上を踏まえた、近畿大学医学部の物理の具体的な対策法をお伝えします。
例年、個別試験の日程は1月末です。試験日から逆算して勉強スケジュールを立ててください。大まかに物理の基礎固めをする11月中旬までと、それ以降に実践力を養う直前期に分けると、対策の進め方にメリハリがつくでしょう。
まず11月中旬までは、物理の典型問題はどんな単元であっても解けるようにすることを目標としてください。近畿大学医学部の物理は重要度の差はありますが、どの単元から大問が出されるか予想することは困難です。もしヤマを張って外してしまうと、全く歯が立たないでしょう。
この時期の勉強におススメの問題集が、「良問の風」(河合塾シリーズ)です。本書の内容が完璧に頭に入るまで、何度も繰り返し取り組んでください。
なお、「良問の風」の特徴は、「「良問の風」の医シュラン!医学部受験で勝つ問題集の使い方」に詳しいので、是非参考にしてください。
また、他の問題集を使う場合でも、詳細な使い方を過去記事「実力をつけるための問題集のトリセツ!効果的な11個の使い方」にまとめているので、ご覧ください。
基礎固めが終わったら、近畿大学医学部の個別試験を意識した勉強にシフトしましょう。とりわけ、私立の医学部受験でよく見られる空所補充型の試験では、大問で与えられる文章の流れに沿って考察を進められるかどうかが勝負の分かれ目です。
ただ1つの空所を埋めるだけでも、問題によっては複雑な計算処理や状況整理が求められることもあります。こういった対応力を養成するのが11月中旬以降だと考えてください。
そのために、
・過去問の分析
・過去問を用いた実戦演習
・問題集による苦手分野の強化
の3本柱でこの時期は対策を進めてください。
個別試験対策のために割ける時間は、残り僅か約2カ月です。効率的に最大限の結果をもたらすには、試験の特性を知り、かつ自身に足りない部分を把握しなければなりません。
本記事でも傾向はまとめていますが、自分の目でも絶対に確認・分析は行ってください。
過去問分析が済んだら、実際に問題を解いてみましょう。このとき、必ず時間を計って取り組み、制限時間内に目標の得点率に達することができるかを試してください。近畿大学医学部の物理は時間に余裕がなく、手早く処理していかないと全部の問題を解ききることは困難です。大問の流れに沿って考察することが重要とお伝えしましたが、私立大学医学部独特な問題へ慣れておくのも対策の一つです。
それだけでなく、高得点を取る必要がない試験であるため、真っ向勝負で難しい問題まで解こうとする必要もありません。大問のどの問題まで解ければ目標を達成できるかを意識しながら解けば、より実践的な演習となるでしょう。大問の流れを感じ、「ここから先は難易度が上がるな。」といった感覚を持てるようになれば一人前です。
同時並行で、苦手な単元をピックアップして、問題集により克服していってください。残り2カ月で全範囲を網羅することは不可能です。過去問分析により分かった、出題可能性のあるテーマから本番出されると困るものから対策をしておくと効率が良いでしょう。
まとめ
近畿大学医学部の物理の傾向と対策法のポイントは、
①理科2科目に対して制限時間は120分
②大問3つで構成される
③空所補充が中心であるが、論述式の設問が出題される可能性もある
④高得点を狙うのではなく、問題の流れに沿って考察し、目標点を取ることを意識する
⑤目標点は100点中60~65点
⑥大問1は力学、大問2は電磁気から、大問3は熱・波動・原子のどれかが出題される
⑦11月中旬までは、物理の典型問題の解法をマスターすることを目標に勉強する
⑧11月中旬以降は、
・過去問の分析
・過去問を用いた実戦演習
・問題集による苦手分野の強化
を行う
の8つです。
今後、近畿大学医学部の物理は空所補充が中心になると予想されますが、論述式と異なり設問の難易度を見抜きづらくなります。難しい問題に足を取られると、解けなければならない問題を解く時間がなくなり、致命的な状況に陥ります。
実戦演習の中で、問題の流れを感じ取る能力を高め、柔軟に対応していきましょう!!
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「近畿大学医学部の数学の傾向と対策」
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また、その他の教科の傾向と対策についても見ることができますので、
ご参考にしてください。
近畿大学の過去問ページ
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