熊本大学医学部の物理の傾向と対策
先日の「熊本大学医学部の英語の傾向と対策」の記事でも紹介しているように、熊本大学医学部の理科では平成30年度以降、生物が必須科目ではなくなりました。そのため今後は物理選択の受験生が増加していくことが予想されます。
本日はその熊本大学医学部の物理について、傾向と具体的な対策法を紹介します。
熊本大学医学部の物理の試験形式・配点は?
はじめに熊本大学医学部の入試制度について見ていきましょう。
熊本大学医学部の入試制度には前期一般入試(95名)、推薦入試(20名)の2つがあります(カッコ内は募集人数)。
本記事では最も受験者数の多い、前期一般入試について扱うこととします。
前期一般入試はセンター試験と二次試験、および面接試験が課され、その合計得点で合格者を選抜します。国公立医学部受験においては最もオーソドックスな制度です。
各試験の科目ごとの配点は、
【センター試験】国語:100点 社会:50点 数学:25点×2 理科:50点×2 英語:100点
【二次試験】数学:200点 理科:100点×2 英語:200点 面接:200点
となっており、センター試験が400点、二次試験が800点の合計1200点満点の試験となります。
点数配分を見ると、全体に占める二次試験の比重が大きいことがお分かりいただけると思います。すなわち、センター試験で良い点を取れたとしても、二次試験で簡単に逆転を許してしまう可能性もあるので、最後まで油断しないように注意しなければなりません。
他にもセンター試験の数学の点数にも要注目です。数学Ⅰ・A、Ⅱ・Bの合計で50点満点であるため、1科目あたりわずか25点しかありません。じっくり考える論述型の試験は得意でもマーク式の手早く処理していくことが求められる試験が苦手な受験生であれば、熊本大学医学部の試験制度と相性が良いといえます。
さらに押さえておきたい点として、平成30年度入試からセンター試験の理科の選択において生物が必須ではなくなったことが挙げられます。つまり医学部受験で主流である、物理・化学・生物3科目から2科目を選ぶ形式になりました。
これにより受験者層の幅が広がるため、倍率や合格最低点にも変化があるかもしれません。熊本大学医学部を志望する場合は、今後の動向にも気を配っておく必要があるでしょう。
その中で理科は、2科目に対して制限時間120分が与えられます。つまり1科目あたりにおよそ60分かけることができます。
物理に関しては大問3つで構成され、いずれも5問前後の小問に分かれています。大問ごとに1つのテーマを扱い、小問の誘導に従って解き進めるようになります。
解答はほとんどが結果のみを書く論述形式ですが、一部に記号問題や作図、グラフの描画といった設問も見られます。また、過去には前問の結果を用いて現象の説明をさせる問題も出されているため、過去問で確認をしておきましょう。
難易度は基礎~標準レベルの問題が中心で、まれに見慣れない状況設定の問題も見られますが、小問による誘導が非常に丁寧なので特殊な発想等は求められません。他の科目に比べると素直な問題が多く、医学部受験生であれば高得点を狙うことも十分に可能です。結果のみを論述するため計算ミス等には気を付けて、是非とも得点源としたいところです。
熊本大学医学部の物理の問題の難易度と合格に必要な得点率は?
続いて、熊本大学医学部の過去の合格最低点のデータや他の科目の難易度をもとに、物理では何点を取ればよいか考えてみます。
熊本大学医学部の合格最低点は、1200点満点中、
平成30年度: 864.38点 平成29年度: 901.51点 平成28年度: 904.87点
平成27年度:896.92点
となっています。すなわち、910点(約76%)あれば合格安全圏といえます。
ここでセンター試験では400点中350点(約88%)取ることができたと仮定すると、二次試験では800点中560点(70%)が必要となります。
そこで、各科目の難易度も考慮したうえでそれぞれ目標点を立てると、
英語:140点 数学:130点 理科:150点 面接:140点
とするとバランスが取れます。
理科は2科目で150点なので、選択した2科目に得意不得意の差がなければ、物理では100点中75点を目指すと良いでしょう。とはいえ、上述のとおり熊本大学医学部の物理は点数が取りやすい出題内容であるため、医学部受験生であれば9割近く得点する人も決して少なくないはずです。75点は最低ラインであり、できる限り高い点数を狙ってください。
一方、センター試験で失敗して仮に320点(80%)しか取れなかったとしても、この時点での差は実質30点分しかありません。つまり二次試験でこの目標点に各科目8点ずつ上乗せするだけで巻き返すことが可能であるということです。とにかく二次試験が勝負を決める配点なので、センター試験が終わった後も少しでも二次試験の点数が上がるように、最後まで努力を続けてください。
熊本大学医学部の物理の出題傾向は?
それでは、熊本大学医学部の物理では、どのような問題が出されるのでしょうか?
物理は単元としては、力学、電磁気、波動、熱力学、原子に大別することができます。そのうち熊本大学医学部では、大問1は力学、大問2は電磁気の単元から出題され、大問3は波動あるいは熱力学のいずれかが出されています。
この傾向は近年変化がなく、しばらくは同様の問題セットが続くと考えられます。以下では出題可能性のある単元ごとに、頻出テーマをまとめていきます。
【力学】
力学は毎年大問1で必ず出される分野であり、かつ解法のバリエーションもさほどないため、できる限り失点を防ぎたい分野です。物体の斜方投射および円運動に関するものが頻出です。物体の斜方投射では基本的には水平方向と鉛直方向を軸として、それぞれの方向に物体の運動を分解して考察します。やや難易度が上がるのが、斜方投射した物体が斜面上に落下する場合です。斜面上への落下では斜面に対して水平・鉛直に軸を取ることが多いため、三角比を用いなければならず計算が複雑になりがちです。軸を意識すれば通常の斜方投射と何ら変わりないので、見かけに騙されないようにしましょう。円運動については、力学のみならず電磁気等の他の単元との複合問題としても出題歴があります。物体にはたらく力の向きと大きさをきちんと図示し、基本に忠実に円運動の運動方程式を立てることを徹底しましょう。
【電磁気】
電磁気も力学と同じように大問2で毎年出題されている重要単元です。電磁気ではコンデンサー回路および荷電粒子にはたらくローレンツ力に関する問題が比較的よく出されています。コンデンサー回路では単純な直流回路とは異なり、経時的に状況が変化するのがポイントです。スイッチを切り替えた直後と十分に時間がたった後で、回路の様子がどのようになるかに着目して解き進めましょう。さらにコンデンサー回路にコイルが組み込まれる問題も定番なので、電気振動についての知識もマスターしておかなければなりません。荷電粒子にはたらくローレンツ力に関する問題は、磁場とローレンツ力の向きの関係と荷電粒子の運動にどのように関与するかの理解が欠かせません。力学的な知識も応用して、ローレンツ力によって荷電粒子がどのような運動をするか判断できるように、問題集を通して訓練をしましょう。また磁場が荷電粒子間のクーロン力によって発生する状況設定もあるため、併せて電気量や粒子間の距離との関係といった考え方を押さえておきましょう。
【波動】
波動は大問3で出題される可能性のある単元で、これまでの傾向からすると熱力学と半々の頻度で見られます。重要度が高いテーマが光の干渉で、近年では薄膜の干渉やヤングの実験が出されています。光の干渉は複数のパターンに分かれており、それぞれに反射時の位相の反転や計算における近似といった論点が存在するため、各パターンとその解法を対応させて覚えておくようにしてください。熊本大学医学部の物理では、他の分野と比べると波動の問題はやや難しい場合が多いため、重点的に対策をしておいた方が良いでしょう。これに加えて光波の他のテーマや、ドップラー効果といった音波に関する大問もバランスよく出されています。そのため波動に関しては、光の干渉にウェイトを置きつつも、標準問題であればどのテーマから出題されても対応できるように準備しておくことが肝要です。
【熱力学】
熱力学が出題される場合、ほとんどが気体の状態変化についての問題です。気体の状態変化は各状態の気体の状態方程式を書き、熱力学第一法則を活用してエネルギーの出入りを分析していけば、ほとんどの問題は解くことができます。これができるようになった上で、ボイルシャルルの法則やモル比熱による内部エネルギーの計算法といった知識の理解を深めていくと効率的です。問題に慣れてきたらどの法則を使うと早く解けるかも考えるようにし、時短にも努めましょう。さらにばね付き容器内の気体の状態変化を扱う問題では、状態変化に伴う気体の仕事やばねに蓄えられた弾性エネルギーとの関係に着目すれば、状況整理はさほど難しくはありません。いずれにしても気体の状態変化の問題は、力学と同じように得点を稼ぎたい分野です。
お勧めの熊本大学医学部の物理の対策方法
最後にこれまでの内容から、熊本大学医学部の物理の対策に必要な具体的な勉強法をお伝えします。
まずセンター試験までは、すべての分野の典型問題について、解法をマスターすることを目標に勉強をします。医学部受験の中でも、難しい問題で5、6割を目指せばよい試験から、基本的な問題で7、8割以上を取らなければならないような試験まで、大学によって問題の性質は様々です。この点、熊本大学医学部の物理は後者に当てはまるので、典型問題への対応力が非常に大切であるということを念頭に置いて勉強しましょう。
この時期におススメの問題集は、「良問の風」(河合塾シリーズ)です。各単元の典型問題が網羅的に掲載されており、解法パターンをマスターするには最適な一冊です。分からない問題がなくなるまで、何度も繰り返し取り組みましょう。
仮に教科書レベルの内容が済んでいるのに本書の問題にまったく歯が立たないといった場合は、問題を解く上で欠かせない知識が身についていない可能性があります。この状況を打破するには、「物理のエッセンス」(河合塾シリーズ)を使ってみるのと良いでしょう。早く難しい問題が解けるようになりたいと焦るかもしれませんが、急がば回れです。
なおこれらの問題集の特徴は別記事「「良問の風」の医シュラン!医学部受験で勝つ問題集の使い方」、「「物理のエッセンス」の医シュラン!医学部受験で勝つ問題集の使い方」に詳しいのでご参照ください。
加えて、より詳細な問題集の使い方についても、過去記事「実力をつけるための問題集のトリセツ!効果的な11個の使い方」で紹介しているので、是非参考にしてください。
センター試験終了後は、二次試験に向けて最後の追い込みを始めましょう。この時期に行っていただきたいのが、
・過去問の分析
・過去問を用いた実戦演習
・問題集を用いた苦手分野の克服
の3つです。
過去問分析は残りの約1カ月の勉強内容を決める重要な作業です。問題の分量はどの程度か、どの単元からの出題が多いか、見慣れない形式の設問は出ていないか、といった観点から5年分程度を確認してください。
過去問分析が終わったら、実際に過去問に挑戦してみましょう。このとき時間を計って取り組むことを忘れないでください。熊本大学医学部の物理は典型問題が多くてきぱき処理していかなければならず、1題当たりに割くことのできる時間は多いとは言えません。時間の使い方の練習ができるのは過去問演習を通してのみなので、一年度一年度を大切にしながら解いていきましょう。
もし手持ちの過去問を解ききってしまったら、難易度や出題傾向の類似した他大学の過去問でも演習を重ねると良いでしょう。熊本大学医学部の物理であれば、岡山大学医学部等の過去問が練習台として使えます。
これらと同時並行で、今まで使ってきた問題集を用いて、センター試験までに克服できなかった弱点を重点的に復習しましょう。残り約1カ月なので、不安に駆られてすべての範囲の復習をしようとするのは非効率的です。せっかく過去問分析をしたのであれば、自身の得手不得手と照らし合わせて、どの分野の対策をすべきかしっかりと優先順位を明確にして取り組んでください。
まとめ
熊本大学医学部の物理の傾向と対策法のポイントは、
①平成30年度から生物が必須科目ではなくなった
②理科2科目に対して、制限時間は120分与えられる
③物理は大問3つで構成され、さらに5問前後の小問に分かれる
④解答は答えのみを書かせる論述形式が中心であるが、作図問題も一部で見られる
⑤難易度は基礎~標準レベル
⑥目標点は100点中75点であるが、できる限り高得点を狙う
⑦大問1が力学、大問2が電磁気、大問3が波動あるいは熱力学で、各頻出テーマは、
【力学】物体の斜方投射、円運動
【電磁気】コンデンサー回路、荷電粒子にはたらくローレンツ力
【波動】光の干渉
【熱力学】気体の状態変化
⑧センター試験までは、すべての分野の典型問題の解法をマスターすることを目標とする
⑨センター試験終了後は、
・過去問の分析
・過去問を用いた実戦演習
・問題集を用いた苦手分野の克服
の9つです。
熊本大学医学部の物理は繰り返しお伝えしているように、医学部受験の中では基礎的な部類に入ります。プレッシャーをかけるようですが、8割9割を取る受験生も続出すると予想されます。「これくらいでいいか」と妥協せず、満点を取る気持ちで勉強しましょう!!
本記事内で登場した過去のオススメ記事
「熊本大学医学部の英語の傾向と対策」
「「良問の風」の医シュラン!医学部受験で勝つ問題集の使い方」
「「物理のエッセンス」の医シュラン!医学部受験で勝つ問題集の使い方」
「実力をつけるための問題集のトリセツ!効果的な11個の使い方」
熊本大学・岡山大学の過去問題やその他の教科の傾向と対策
こちらのページで過去問を無料で閲覧できます
また、その他の教科の傾向と対策についても見ることができますので、
ご参考にしてください。
熊本大学の過去問ページ
岡山大学の過去問ページ
本記事で登場したお勧めの問題集・参考書
「良問の風」(河合塾シリーズ)
「物理のエッセンス」(河合塾シリーズ)
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